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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)131号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)及び同二(本件審決の理由の要点)が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

二 そこで、本願意匠が引用意匠に類似する意匠といえるか否かについて判断する。

1 本願意匠と引用意匠の共通点及び差異点

両意匠の構成(本件審決の理由の要点1、2)、意匠に係る物品の共通性(同3)、ハンドル部の下方の認定を除く両意匠の基本的な構成形態及び具体的な構成態様の共通点の認定並びに本件審決が認定摘示した差異点のほかの差異があるか否かの点を除き具体的な構成態様に摘示されたとおりの差異点があること(同3)は、当事者間に争いがない。そして、成立につき争いのない甲第二号証(本願意匠登録願書添付の図面代用写真)、甲第三号証(引用刊行物・本出願前に日本国内において頒布された刊行物であることは、原告の明らかに争わないところである。)及び引用意匠の拡大写真であることについて争いのない乙第一号証によれば、両意匠の具体的な構成態様には本件審決が摘示した差異点<9>ないし<12>の点(以下、共通点及び差異点の番号の表示は、原告主張の表示による。)のほか、それらの評価の点は別として原告が差異点<13>ないし<16>として指摘するような差異のあることが認められる。本件審決の指摘した差異点<10>(ハンドル部の下前方柱状体が、本願意匠のものは薄く細いのに対し、引用意匠のものは太い点)及び右の差異点<15>の後段の点(ハンドル部の下部の態様として、本願意匠では一本の柱状体が斜め下方に伸びているのに対し、引用意匠では太い二本の柱状体が交差する形を取つていること)に関連して、原告は、ハンドル部下方の右の差異を理由にして、本件審決が、両意匠に共通した基本的な構成形態の一つとして、いずれも「ハンドル部の下方は、倒立のほぼ三角形状に突出させている」と認定した点(共通点<3>)が誤りである旨主張するが、前掲各証拠に照らしてみると、ハンドル部を構成している部材の太さやそれらの交差する態様において、右のような差異があるにしても、ハンドル部の下方は三角形状体を基本としたものと認識できないものではないから、本件審決が両意匠に共通する基本的な構成形態を認定するに当たりハンドル部の下方の構成について、いずれも「倒立のほぼ三角形状に突出させている」と認定したことは必ずしも誤りとはいえない。

右認定したところによれば、本願意匠及び引用意匠は、ともにカツター部、本体部及びハンドル部を水平状に配列して、本体部は四角筒に近いほぼ円筒状体とし(共通点<1>)、その前方に放熱フインを設け(同<4>)、ハンドル部の上端面は本体部と連続して平坦状に形成され(同<2>)、ハンドル部の下方は部材の太さや底辺と斜辺との交差態様に違いがあるものの、倒立のほぼ三角形状に突出させており(同<3>)、カツター部を本体部の前面に円盤状体から鉤形状に突出させている(同<5>)という基本的な構成形態においては共通しており、更に、具体的な形態においても、本体部の上下面がほぼ平坦状に形成され、両側面を外方に膨出させるいわゆる胴張り状面としている点(同<6>)、本体部の後方に設けた放熱孔は両側面に複数本横平行状のものであること(同<7>)及びハンドル部の上面は薄板状とし、後方の把手の部分はほぼ四角状体でやや前傾斜状となつていること(同<8>)において共通していることが認められ、両意匠の具体的な構成態様における差異は、次のようなところにあることが認められる。すなわち、

(本体部後部の構成形態について)

本体部の後方(放熱孔の付近)において、本願意匠は後端へと弧状面をもつて幅狭にしぼつており、このほぼ円弧状の膨らみ部分と後面に数条の放熱孔を設けているのに対し、引用意匠はほぼ同じ太さで後端へと角張つた面構成としており、この側面に放熱孔が並んでいる(差異点<9><16>)。

(ハンドル部の構成形態について)

ハンドル部の下前方柱状体において、本願意匠は薄く細いのに対し、引用意匠は太い(同<10>)。ハンドル部のスイツチについて、本願意匠ではスイツチを囲んで細いブリツジが設けられているのに対し、引用意匠にはそのようなブリツジはなく、また、下方の倒立したほぼ三角形状の突出について、本願意匠では一本の細い柱状体が斜め下方に伸びているのに対し、引用意匠では太い二本の柱状体が交差する形を取つている(同<15>)。

(本体部の放熱部の構成形態について)

放熱部の前方において、本願意匠は、カツター部に連続する部分を横長方形状の凹部をめぐらしたのち円筒状体に直交し、深い溝を形成する縦状の放熱フインを複数枚重ねるように並置しているのに対し、引用意匠はカツター部に連続して直ちに放熱フインを本体部の円筒状体に平行する横筋状としている(引用意匠には本願意匠のような横長方形状の凹部は存在しない。)こと(同<11>)及び本願意匠の放熱部には柱状のものは存しないが、引用意匠には四本の横長の柱が顕著に伸びている(同<14>)。

(カツター部の形態について)

本願意匠においては、カツター部の前端部を立つた態様とし、かつカツター部の四角柱の部分に横長の凹みが設けられているのに対し、引用意匠のカツター部の前端部は弧状の態様であり、かつ引用意匠には本願意匠のような凹みがない(同<12><13>)。

2 類否判断における「基本的な構成態様における共通点」についての評価

原告は、本件審決が、本願意匠と引用意匠との基本的な構成形態(共通点<1>ないし<5>)及び具体的な形態における共通点(同<6>ないし<8>)がこの種物品に係る意匠において最も強く看者の注意を惹く特徴的な箇所であるとみた認定評価が誤りである旨主張し、その理由として、本願意匠の出願当時には、本件審決が「基本的な構成形態」として摘示したような構成をもつ意匠はありふれたものであつた旨主張するので、この点について検討する。

ところで、意匠法は、工業上利用することができる意匠の創作を保護することによつて、「意匠の創作を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的としている。」(第一条)が、工業製品に係る意匠は、需要者の嗜好の変遷や技術面での進歩などに応じて変化するものであり、その意匠の変化は、それまでの意匠を何らかのかたちで前提とした段階的なものとなるのが普通である。したがつて、登録出願に係るある意匠が意匠法第三条第一項第一、二号に規定された引用意匠に類似する意匠かどうかを判断するにあたり、当該出願意匠の特徴点を認定する場合においては、その意匠登録出願当時のその意匠の属する分野における一般的な意匠の傾向やその普及の程度など意匠出願の背景などを勘案すべきものである。登録出願に係る意匠の構成のうちで、出願当時において需要者がしばしば目にするようなありふれた部分は、看者の注意を惹く箇所とは到底いえないし、そこにいわゆる意匠の要部をあるともいえないからである。これを、本願意匠に係る物品である「油圧作動カツター」もしくはこれと同種の「携帯用電気切断機」、「携帯用棒鋼切断機」などカツターとよばれる物品の意匠についてみると、前掲甲第三号証(引用刊行物・昭和四八年六月一九日東京工業大学図書館受入れ)によれば、引用刊行物は外国のものとはいえ、昭和四八年に発行された「建築機械及び建築技術」の雑誌であり、広く頒布されたものと推認し得ること、成立に争いのない甲第四号証(昭和五〇年二月二一日出願、昭和五二年一〇月三一日発行、昭和五二年六月一四日登録第四六〇四八八号の携帯用棒鋼切断機の意匠公報)、甲第六号証(昭和四五年九月二日出願、昭和四八年六月八日発行、昭和四八年三月二六日登録第三六四七〇三号の携帯用棒鋼切断機の意匠公報)、乙第二号証(昭和四五年五月一一日出願、昭和四五年一月二九日出願、昭和四九年一月二九日発行、昭和四八年一一月二二日登録第三七六六三七号の携帯用電気切断機の意匠公報)、乙第三号証(昭和四七年三月三〇日出願、昭和五〇年一月二一日発行、昭和四九年一〇月二八日登録第三九一二五五号の電動棒鋼切断機の意匠公報)及び乙第四号証(昭和四七年六月一二日出願、昭和五〇年二月一〇日発行、昭和四九年一一月一九日登録第三九二五九八号の電動棒鋼切断機の意匠公報)並びに弁論の全趣旨を総合すると、本願意匠に係る物品もしくはこれに類するカツターに係る意匠出願の変遷として、昭和四七年ころまでには、例えば乙第二ないし第四号証にみられるように、カツター部、本体部及びハンドル部をほぼ長方形状内に収まるように配置した携帯用電気切断機及び電動棒鋼切断機の意匠出願がみられるが、他方、引用刊行物頒布前である昭和四五年には、すでに本件審決がこの種物品の基本的な構成形態として指摘した構成を基本的に備えた甲第六号証の意匠が出願され、この意匠公報は昭和四八年九月に発行されているところ、右の基本的構成形態は、その後、昭和五〇年二月二一日に出願され、昭和五二年六月一四日に登録された甲第四号証の意匠や昭和五五年八月一日に出願された本願意匠に受け継がれているものと認められること、成立に争いのない甲第八号証(石原機械工業株式会社発行の一九七四年版総合カタログ)によれば、昭和四九年には、前掲甲第四号証の意匠に近似し、本件審決が「基本的な構成形態」とする構成をすべて備えた鉄筋カツターが同カタログにより広く需要者向けに宣伝され、かつ製品として販売されていたことが認められることなどを勘案すると、このような「基本的な構成形態」を備えた「油圧作動カツター」の意匠は、本願意匠の出願当時には、すでに需要者が普通に目にし得るようになつていたものと推認でき、これを覆すに足る証拠はない。

右認定のとおり本願意匠の出願日である昭和五五年八月一日当時において、本件審決が本願意匠と引用意匠とが共通に有する「基本的な構成形態」を具備する意匠が、一般需要者にとつて格別真新しいものではないとすると、この種物品を購入するにあたつても、右の基本的構成形態のうちでの差異、その他の部分における顕著な差異に注目することは当然というべきである。この点、本件審決及び被告は、本願意匠の出願当時に本願意匠と引用意匠とが共通にもつ「基本的な構成形態」が、どの程度一般に普及し、知られていたかについての検討考察を欠いたものといわざるを得ない。

3 本願意匠と引用意匠との差異点の評価

前叙のとおり本件審決が本願意匠と引用意匠とに共通した「基本的な構成形態」とした構成が、必ずしも看者の注意を最も強く惹く箇所とはみられないとすると、前記認定に係る本願意匠と引用意匠との差異点に基づいて両意匠の類否を判断すべきことになるので、この点について検討を進める。

まず何よりも両意匠において、看者に対し強い差異感を訴えるのは、本体部前方の放熱フインである。すなわち、前記のとおり、放熱フインの形状は、本願意匠が縦状であるのに対し、引用意匠が横筋状であり、その位置は、本願意匠では、横長方形状の凹部を介してカツター部に連なるのに対し、引用意匠では、カツター部に直ちに連なつているのであつて、前記のように基本的構成態様が特に看者の注意を惹くものでない以上、放熱フインの右のような形状、位置の差が看者の視覚に与える差異感は少なくないものというべきである。これに加えて、本体部について、本願意匠では、その側面がふくらみを帯び、また、その上下面の後端が弧状をもつて絞られていて、全体が丸味を帯びている印象を与えるのに対し、引用意匠では、これに比しその側面が平らで全体がほぼ同じ太さであるため、全体として角張つた印象を与えており、また、カツター部の形態が、本願意匠では、先端が直角に削られているのに対し、引用意匠のカツター部は、先端が大きな径をもつて丸く削られているなどの差異にあることも看者に対し無視できない印象を与えているものと認められる。

このような本願意匠における引用意匠と異なる構成に加えて前記1に認定した両者の他の差異点をも勘案して、両者を全体として対比すると、本願意匠は引用意匠とは異別の美的印象を看者に与えるものということができる。そして、本願意匠がこれらの差異点を前記の「基本的な構成形態」の中において、意匠として総合的に採択してまとめあげた点に意匠創作という評価を与えるのが相当である。この点、被告は、両意匠の間にある具体的な構成態様の差異は、公知の技術的事項に基づく創作性のない構成であるか、あるいは公知の意匠の構成部分にすぎない旨主張するところ、個別的な構成として部分的にみる場合には被告主張のとおりその構成態様が新規なものではないにしても、これらを他の構成態様と一体にし全体的に観察したとき、本願意匠が、前叙のとおり引用意匠とは異なつた美的な印象を看者に与えるものであるから、被告の主張をもつてしても右の認定判断を覆し得るものではない。

以上のとおりであるから、本願意匠が引用意匠と類似するとした本件審決の判断は誤りであり、違法として取消しを免れない。

三 よつて、本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由があるものとして、これを認容する。

〔編注1〕本件における請求原因は左のとおりである。

第二 請求の原因

一 特許庁における手続の経緯

原告は、昭和五五年八月一日、意匠に係る物品を「油圧作動カツター」とする別紙図面(一)(代用写真)記載のとおりの意匠(以下「本願意匠」という。)について意匠登録出願(昭和五五年意匠登録願第三一〇五四号)をしたところ、昭和五八年一月二〇日拒絶査定されたので、同年四月一一日これを不服として審判の請求をした。特許庁は、同庁昭和五八年審判第七二五五号事件として審理し、昭和六三年五月一七日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をなし、その謄本は同年六月八日原告に送達された。

二 本件審決の理由の要点

1 本願意匠は、願書及び願書添付の図面代用写真によつて表されたものによれば、意匠に係る物品を「油圧作動カツター」とし、その形態を別紙図面(一)に示すとおりとしたものである。

2 これに対して、当審において拒絶の理由として引用した意匠は、一九七三年(昭和四八年)三月ドイツ連邦共和国において頒布された雑誌、Baumaschine und Bautechnik(BKT)の三月号(引用刊行物)の一二七頁に掲載されている「携帯用棒鋼切断機(モノースキツト)」の意匠であり、その形態は別紙図面(二)に示すとおりとしたもの(以下「引用意匠」という。)である。

3 そこで、両意匠を比較すると、両者は、意匠に係る物品を同種のものとし、形態については、全体は、前端部分をカツター部、本体部(ギヤー及びモーター部)、後方をハンドル部とし、基本形状を四角筒に近いほぼ円筒状体に形成してギヤー及びモーター部すなわち本体部とし、ハンドル部は、上端面をギヤー及びモーター部と連続する平坦状とし、下方は倒立のほぼ三角形状に突出させており、ギヤー及びモーター部の前方を放熱部としており、カツター部は、円盤状体から前端にかけてほぼ鉤形に突出させているという基本的な構成形態において共通しており、この共通点はこの種の物品中においては、両意匠の基調(骨格)を同じくするものとして顕著なものがある。具体的な形態における共通点としては、ギヤー及びモーター部は上下面を平坦状に形成し、両側面を外方に膨出させる胴張り状面としており、モーター部後方の放熱孔は両側面に複数本横平行状に表している。ハンドル部の上面は薄板状とし、後方は四角柱状体でやや前傾斜状としているなどの諸点において共通しているものであり、前記の基本的な構成形態において共通する両者の基調を更に具体的なものとして肉付けされ、これによつて更に強い共通感を生じ、この種物品中においては特徴ある印象を看者に与えている。次に、具体的な形態における差異点としては、モーター部の後方(放熱孔の付近)において、本願意匠は後端へと弧状面をもつて幅狭にしぼつているのに対し、引用意匠はほぼ同じ太さで後端へと角張つた面構成としている。また、ハンドル部の下前方柱状体において、本願意匠は薄く細いのに対し、引用意匠は太い。放熱部の前方において、本願意匠は、カツター部に連続する部分を横長方形状の凹部をめぐらしたのち円筒状体に直交する態様(縦状)で放熱フインを複数枚重ねる態様としているのに対し、引用意匠はカツター部に連続して直ちに放熱フインをギヤー及びモーター部のほぼ円筒状体に平行する横筋状としている。すなわち、引用意匠には本願意匠のような横長方形状の凹部は存在しない。また、カツター部の前端部において、本願意匠は角立つた態様としているのに対し、引用意匠は弧状の態様としているなどの諸点である。

4 これらのうち、放熱フインの点やモーター部の後方の処理などの点において、面構成上差異感があるとしても、前記の基本的な構成形態の共通点である骨格を変更するまでには至つていない部分的差異感(点)に止どまるものである。その他の差異点については引用意匠の基本的な構成形態における共通点中に埋没する程度の付加的変更の域をでない細部的差異点に止どまつている。

以上のとおり、基本的な構成形態及び具体的な形態における共通点は、両者の基調を同じくし、特徴的な印象を看者に与えているので、部分的または細部的な差異点があるとしても未だ両意匠は全体的な観察においては相互に類似しているものというほかない。したがつて、本願意匠は、意匠法第三条第一項第三号に規定する意匠に該当し、登録を受けることができない。

三 本件審決を取り消すべき事由(中略)

第三 被告の答弁

1 請求の原因一、二の事実は、認める。

2 同三の主張は、争う。本件審決の認定判断には、正当であつて、本件審決には、原告主張のような違法の点はない。

(一) 同三2(一)の主張について

原告は、両意匠の類否を判断するに当たつては、全体の美的感覚を比較しなければならないとしたうえで、本願意匠について、「キビキビした、都会風の、洗練された趣を有する。」とか、「言うなれば、現代的で、やや女性的又は知性を感じさせる面を備えている。」とか極めて文学的な表現を用いて両意匠の比較をしているが、原告が用いている表現は、いずれも個人的、恣意的、文学的な感覚に基づいた感想にすぎず、意匠を評価する人によつて判断を異にするものである。それ故に、原告が主張するような類否判断の方法は、新規性及び創作性を具備することを登録要件(意匠法第三条)としている意匠の類似性に関する判断においては意味のある方法とはいえない。

本件審決は、本願意匠と引用意匠との主たる共通点及び差異点を認定摘示し、それらの構成について、創作性の有無及び程度を明らかにしたうえで、全体的総合的な観点から、本願意匠について登録要件である創作性及び新規性の有無を判断するという客観的な方法に則つて本願意匠と引用意匠との類否判断を行つたものであるから、この点の原告の非難は当たらない。

(二) 同三2(二)及び(三)の主張について

本件審決が、「ギヤー及びモーター部」と表現したのは、「本体部」を別称したにすぎない。このことは、「本体部(ギヤー及びモーター部)」、「ギヤー及びモーター部すなわち本体部」という記述のあることからして明白である。原告は、甲第四号証の意匠や甲第六号証の意匠を例示したうえで、本件審決が本願意匠と引用意匠との共通した基本的な構成形態として摘示した構成並びに具体的な形態における共通点(<6><7><8>)として指摘した構成は、いずれもこの種物品に係る意匠の構成としてはありふれたものであり、これらの共通点をもつて類似性を肯定する要因とすることはできない旨主張する。しかしながら、引用意匠が公知になる以前にあつては、本件審決が指摘した「基本的な構成形態」に近い構成を備えた意匠は甲第六号証の意匠(昭和四八年三月二六日登録)を見いだせるのみであり、本願意匠の出願日までの範囲に広げて調査しても甲第四号証の意匠(昭和五二年六月一四日登録)があるのみであつて、その他、本願意匠に係る「油圧作動カツター」もしくは「携帯用電気切断機」などの物品にみられた意匠は、乙第二号証(昭和四五年五月一一日出願、昭和四九年一月二九日発行、昭和四八年一一月二二日登録第三七六六三七号の携帯用電気切断機の意匠公報)及び乙第三号証(昭和四七年三月三〇日出願、昭和五〇年一月二一日発行、昭和四九年一〇月二八日登録第三九一二五五号の電動棒鋼切断機の意匠公報)などのように、本件審決が摘示した「基本的な構成形態」を有しない構成のものであつた。

なお、前掲甲第四号証の意匠は、原審において拒絶査定された際に拒絶理由として引用された意匠であり、また、引用意匠は、前掲甲第四号証の意匠登録を無効にすべく、原告が請求したその意匠登録の無効審判請求の無効事由として、原告自身が提出した刊行物である(この登録無効の審判請求は、その後取り下げられた。)。

右に検討調査したところによつても、引用意匠のもつ基本的な構成形態は、原告の主張するようにありふれたものではなく、本件審決が摘示した共通点の中に内在している次のような特徴をもつ、極めて創作性が高く新規性に富む意匠といい得るものである。すなわち、引用意匠は、本体胴部外面を左端から右端へかけてほぼ同じ幅(径)で、かつ、横に長い柱体状とし、その延長線上の両端にハンドル部とカツター部とを連続して設けた構成とし、しかも、本体部とハンドル部、カツター部との接続態様を、本体胴部外周面を基準とすると、その外周面を左右へ直線状に延長した枠内(四角筒に近い円筒体内)に、ハンドル部下方部を除き、ほぼ納まるように連続的に接続した構成態様を採用した点に大きな特徴点があるのである。端的にいうならば、一本の長くて太い柱体の後部に手指差し込み用の孔を有し下方へ突出する態様のハンドルを一体に設けた点である。右に述べた引用意匠の特徴点は、本願意匠を一見しただけで感知できるものであるので、本件審決は、このことを当然の前提としたうえで、本願意匠と引用意匠との基本的な構成形態の共通点の一つとして、単に「本体部を四角筒に近い円筒状体に形成している」との表現を用いた認定をしたものである。そして、更に、本件審決は、その余の基本的な構成態様における共通点と具体的な態様における共通点を認定摘示したのである。このように、前記のごとき特徴点を具備し、かつ、本件審決が指摘した「基本的な構成形態」及び「具体的な態様」のいずれを備えたようなこの種物品に係る意匠は、引用意匠が引用刊行物に掲載された時点においては勿論のこと、本願意匠の出願当時においても、原告のいうようにありふれた意匠ではなかつたのである。前掲甲第四号証の意匠は、本願意匠や引用意匠のように本体部が「四角筒に近いほぼ円筒状体に形成」されているとはみられないし、また、前記の特徴的構成、就中、本体部の態様を中心とした構成態様を具備していない。すなわち、甲第四号証の意匠は、本体部の前方部を円柱状体とし、本体部の後方(放熱フインから後方)内円側をほぼ円錐台状体とし、その上下面の中央部をハンドル部と一体的に延長させて背びれの態様で凸状に突出させており、放熱フインは、本体部外周面から放射状に大きく突出させており、これを正面からみると、放射フインの先端は本体前方部及び後方部より一回り大きく突出しているものである。これらの諸点をみると、甲第四号証の意匠は、引用意匠と異なるものであるから、本願意匠は、甲第四号証の意匠より引用意匠により類似したものといえるのである。したがつて、甲第四号証の意匠が意匠登録され、一方、本願意匠が引用意匠に基づいて拒絶されたとしても何ら不合理でないから、この点をいう原告の主張は失当というべきである。

なお、原告は、甲第八号証(石原機械工業株式会社発行の一九七四年版総合カタログ)を援用して、引用意匠について本件審決が指摘した基本的な構成形態には本願意匠の類似性を肯定すべき要因はない旨主張するが、前掲甲第八号証にみられる意匠は、引用意匠が公知になつて以後の意匠であるから、これによつて、引用意匠の前記の特徴が希釈される関係にはないし、前掲甲第八号証にみられる意匠は、引用意匠に類似しており、かつ、本願意匠もこの類型に属するものであるから、本願意匠には何ら特徴となるべき構成態様はないといわざるを得ない。

(三) 同三2(四)の主張について

(放熱部の放熱フインについて)(差異点<11>について)

原告は、本体部の放熱部分について、この放熱部分は、「技術的に製作が難しく、かつコストも高くなることもあつて、放熱フインを本願意匠のように縦方向に構成したものがなかつたこと」及び「技術的な理由からこの部分の基本的な構成は大体一定になるという意匠創作上の制約があり、本願意匠の放熱フインにおける特異な構成は、看者の注意を最も強く惹くところである。」と主張する。しかしながら、一般に放熱の機能上これを解決する態様には種々あることが広く知られており、その態様の一つとして、本願意匠のように筒体の軸方向に対し直交する向きに多数の放熱フインを設けることも従来から広く知られ、また行われていることである(例えば、乙第八号証の三ないし六及び乙第九号証の一参照)。そうすると、本願意匠のこの部分の構成態様は、独自の創作によつて形成されたものではなく、放熱フインの態様として従来より極く普通に知られている周知の態様の一つを選択したにすぎないものである。このことを考慮すれば、当業者にとつて、かかる放熱フインの方向性の相違には、それ程新規性がないものであり、この点の構成が本願意匠における独自の特徴部分を形成しているものとは認められない。してみると、全体的な態様の類否判断においては、差異点<11>による影響は格別のものではなく、その差異によつて本願意匠と引用意匠との共通点から受ける印象を圧する程度の印象を看者に与えるとは認められないから、これと同旨の本件審決の判断には何ら誤りはない。

(把手部の差異について)(差異点<9><10><15><16>について)

把手は、取り付ける位置及び把手自身の態様によつて種々のものがある(その一例として乙第二号証の把手参照)ことを背景として、本願意匠と引用意匠とを比較すれば、両意匠は、概ね同形式の把手というべき点で共通している。そして、本願意匠と引用意匠のこの部分の態様は、すでに広く知られた態様に類するものであり、特に、本願意匠における把手部分の態様は、前掲甲第四号証の意匠と比較すると明らかなごとく、モーター後方部の構成を除いて、前掲甲第四号証の意匠と酷似しているので、その態様は、本願意匠の出願前公知のものといい得るものである。更に、右にみた把手部分の構成は、本願意匠に係る「油圧作動カツター」と関連する物品である「電動工具」の分野においては極くありふれた態様である(乙第一〇号証及び乙第一一号証参照)。したがつて、本願意匠におけるこの部分の構成形態が、新規なものとして看者の注意を強く惹くところであるとは到底認められない。それ故に、全体的な態様の類否判断において、この部分の差異は部分的な差異に止どまるとした本件審決の判断には何ら誤りはない。

(カツター部について)(差異点<12><13>について)

カツター部は、機種により変更される部分であり、かつ交換される部分であるので、本体部の構成と比較して二次的な部分であり、かつ、両意匠におけるカツター部の差異はその前端部分という限られた部分の態様における差異にすぎなく、この部分の構成形態は前掲甲第四号証の意匠にみられるように本願意匠の出願前公知の態様と軌を一にするものであり、格別新規な態様ではないから細部的な差異というべきである。また、カツター部の四角柱の部分に横長の凹みが設けられている点(差異点<13>)については、機器の軽量化を図るために必要に応じて設けられる凹みであり、設けられた箇所及び凹みの態様も極めてありふれたものであるから(乙第三号証、乙第四号証及び甲第六号証参照)、当業者においてこの種物品に係る意匠を実施するに当たり付加変更する範囲のものであつて、本願意匠と引用意匠との類否判断においては微差にすぎない。

(四) 同三2(五)の主張について

以上のとおりであるから、本件審決が本願意匠と引用意匠との類否判断において、両意匠の差異点は、両者の共通した基本的な構成形態から受ける特徴的な印象を凌駕する程度の異つた印象を看者にあたえるものではないから、部分的差異点ないしは付加的な変更の域をでない細部的差異点と判断したことには何ら誤りはない。

〔編注2〕本件における添付図面は左のとおりである。

図面(一) 本願意匠

<省略>

本願意匠

<省略>

図面(二)引用意匠

<省略>

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